環境経営の視点から人工知能(AI)を使い、鉄鋼産業の未来を考えてみました。
環境という言葉には多くの意味合いが込められているので、雑駁な捉え方と受け止めるかもしれません。でも、企業経営は多角的、複眼的にいろんな視点から切り取ってもキリがないほど複雑怪奇な生き物です。事業内容はモノ、サービスを問わず技術革新が進みますし、経営者が代変わりするたびに戦略は異なる方向を向くことはたびたび。「環境経営度」という定点を人工知能と一緒に磨きをかけながら、企業経営を解析する試行錯誤を続けてみたいと考えています。
CO2を世界で最も排出する鉄鋼
鉄鋼産業の環境経営度を分析する第1の視点はCO2の排出量。地球温暖化の主因とされるCO2排出を大量に排出する元凶として鉄鋼がやり玉にあげられますが、実際その存在感は突出していています。世界のCO2排出量のうち鉄鋼が10%程度、産業別では25%も占めています。日本の産業全体でみると、なんと40%と跳ね上がります。第2位の化学が15%ですから、日本政府が掲げるカーボンニュートラル達成は鉄鋼産業がCO2排出をいかに削減するかにかかっているといって間違いないでしょう。
日本製鉄が米USスチールを買収した狙いも、地球温暖化を防止する「カーボンニュートラル」時代に相応しい経営への転身にあります。日鉄は1980年代まで高炉を軸に世界最大の鉄鋼メーカーとして君臨してきましたが、今や中国や欧州に抜かれ、市場の価格主導権を奪われています。再び世界最強の鉄鋼メーカーへの浮揚をするためにも、世界に先駆けてCO2を排出しない鉄鋼メーカーに転身するとともに、中国勢を寄せ付けない競争力を強化しなければいけません。
成否は電炉とグリーンスチール
キーワードは2つ。「電炉」と「グリーンスチール」です。
電炉は鉄スクラップを電気で溶かすため、CO2排出量を高炉の約4分の1に抑えられます。日鉄は2025年、国内3拠点で合計約8700億円を投じる電炉への転換投資を決定しました。九州製鉄所 八幡地区は 高炉を廃止し、大型電炉1基を新設。瀬戸内製鉄所 広畑地区と山口製鉄所 光地区は既存の電炉を増強します。いずれも2029年をめどに本格稼働します。買収した米USスチールも大型電炉への投資を加速させています。
電炉転換は、原料を鉄鉱石から鉄スクラップに変えることを意味します。安価な電力、原料の良質な鉄スクラップを安定して調達しなければ、生産コストは上昇、価格競争力を維持できません。スクラップは不純物の管理が難しく、日鉄が世界最高の評価を得る「高級鋼」は質の良いスクラップの確保が生産の成否を分けます。USスチール買収も、北米の良質のスクラップ資源や電炉ノウハウを取り込むこことを視野に入れていました。
「グリーンスチール」も電炉と同じ発想です。従来の鉄鋼製法よりCO2を大幅に削減した鉄鋼材料ですが、電炉だけでは生産能力が不足してしまいます。既存の高炉を使って従来のコークスの代わりに水素で還元する「高炉水素還元」、高炉を使わずに水素と反応させる直接還元鉄を生産する「直接還元」も実用化を急いでいます。
AIは、日本製鉄が選んだ「電炉」と「グリーンスチール」を融合させるハイブリッド戦略を「重厚長大な装置産業」から「高度な技術と資源循環を操るテック企業」への脱皮と評価しています。USスチール買収を含めて世界で最も早く「高炉から電炉への置き換え」に勝負をかけ、「設備そのものを入れ替える(スクラップ・アンド・ビルド)」という外科手術を選んだ意気込みに注目しており、日鉄の経営を先行逃げ切り型と断じます。
解析する切れ味は見事です。
◆ 写真は日本製鉄の君津製鉄所