地球環境

法人のふるさと納税、寄付と献金の違いはどこに 列島改造論から生まれた電源3法を彷彿

 法人が自治体に寄付するふるさと納税が増えているそうです。

10億円超の自治体は6市町村

 日本経済新聞10月22日付け記事によると、法人によるふるさと納税の寄付額は2021年度が前年実績に比べて2・1倍に急増しました。法人を対象にした制度が開始した2016年以降、10億円を超える寄付額を集めた自治体は6市町村。自治体の新たな「自主財源」として活用できるため、同記事では企業の投資案件を切り口にふるさと納税を営業する首長もいると指摘しています。

1位は東通村、2位は裾野市

 日本経済新聞が自治体別に集計した結果をみると、最も多いのが青森県東通村の18・3億円。第2位は静岡県裾野市の17・4億円。東通村は東北電力と東京電力が原子力発電所の建設計画を進めており、主に寄付する法人は電力や建設など原発関連。裾野市はトヨタ自動車が工場閉鎖した跡地を中心に未来都市「ウーブンシティ」を建設するなど長年の付き合いがあります。いずれも行政と事業が深い関係にあり、自治体の発展に貢献したいという企業の気持ちは理解できます。

 ただ、素朴な疑問が消えません。寄付行為は個人にも企業にも認められているとはいえ、事業利益と深く関わる自治体に多額の寄付することは、自治体行政に影響は与えないのでしょうか。個人商店の1億円とトヨタや東北電力など大企業の1億円は同じ金額でも、重みが違います。

 法人によるふるさと納税制度の特徴をざっとみてみます。寄付した企業は自治体に納める法人住民税の控除などが受けられるほか、一部を損金に計上できます。最大で9割も税負担を軽減できるそうです。個人の寄付行為と異なるのは、企業の本社所在地の自治体へ寄付できないほか、納税による返礼品は受け取れません。いずれも、なるほどというよりは、それはそうでしょうということばかりです。

税負担軽減を追い風に21年度から急増

 日経新聞によると、企業によるふるさと納税の寄付額は19年度まで20億~30億円程度で推移していましたが、税負担の軽減が最大6割から高まったことを受けて21年度は225億円と大幅に増え、寄付した企業数も3098社まで膨らみました。制度の名乗りをあげる自治体も21年度は前年度比8割増の956も数えます。

 寄付額トップの東通村は下北半島北部にあり、周囲は原発建設が集中している地域です。東京電力、東北電力が計画を進めているほか、Jパワーが半島先端の大間町で原発を建設しています。「原発銀座」と呼ばれた福井県、石川県の日本海側に並ぶ原発立地地域です。

 東通村を訪れたことがあります。北陸、福島県など全国の原発建設地を取材で回りましたが、東通村の街区建設はちょっと頭抜けています。丸いドームなど村関連の施設はユニークに設計され、住宅地も家並みのデザインが異なり、周囲の市町村と違った雰囲気が漂います。ひとことで言えば「垢抜けて、洒落ています」(周囲の自治体のみなさん、失礼しました)。

 東通村のホームページにも「役場庁舎・交流センター・体育館が、三角・丸・四角という形をしており、それぞれで天・地・人を表します。通りかかった観光客などが珍しそうに見物しています」と説明していますが、青森県で生まれ育った人間の私から見ても、「へえー」と驚き、写真を撮影してしまいました。

列島改造論とダブります

 原発立地や企業誘致で多額の助成金競争を取材した経験があるせいか、法人によるふるさと納税は、電源3法の書き直しとダブってしかたがありません。

 過疎地域の電力料金を安くして産業や人口の誘導に役立てるとか、地方税である電気ガス税を国税にして、地域開発の角度から全国的に再配分すべだという意見もある。過密地域の工場やビルでは電気ガス税の税率を高くし、過疎地域では税金を免除し、それによる市町村第税の減収分は交付金で補てんする仕組みだ。

 1973年に施行された「電源3法」を主導した田中角栄元首相が就任前に発刊した「日本列島改造論」の一部から引用しました。言葉遣いは違いますが、大都市圏から地方へ税金を再配分し、地域を活性化しようという趣旨は同じです。

 電源3法は電力会社から税金を徴収する「電源開発促進税法」、交付金や補助金を交付する「特別会計に関する法律」、公共用施設等を整備する地方公共団体に交付する「発電用施設周辺地域整備法」のことです。原発建設を受けれいた自治体には億単位の交付金が支払われます。

 電源3法の交付金以外にも電力会社は建設立地が決定する前から自治体に対しさまざまな協力を惜しまず、当然ながら発電所稼働後も続きます。農水産以外に税収が見込めない地域にとって電源3法の交付金はとてつもない迫力を持ったマネーです。

市町村の主要財源に育てば、行政に影響?

 法人によるふるさと納税は電源3法ほどの威力は感じさせません。しかし、毎年続けられた寄附金は確実に膨らみ、自治体行政にとって欠かすことができない財源になることでしょう。寄付行為が行政に影響を与える恐れも否定できません。カーボンニュートラル で原発の再稼働・新増設が大きな政策として再浮上しています。生まれ育った街を応援したいという気持ちでスタートしたふるさと納税です。本来の趣旨と異なる方向へ進まないよう願っています。

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